微細加工に用いるレーザーは、照射と停止を高速に間欠的に繰り返すパルスレーザーが適しています。特に、短パルスレーザーや超短パルスレーザーなど、パルス幅(照射している時間)の短いレーザーを用いると高品質な加工が実現できます。
従来は、ナノ秒レーザーが短パルスレーザーの代表でした。それは、ピコ秒レーザーやフェムト秒レーザーなどの超短パルスレーザーは非常に高価で、扱いづらく、安定しなかったためです。しかし最近では、工業用途に耐えられるレーザーが市販されており、モノづくりで利用される機会が増えてきています。
このパルス幅を表すナノ、ピコ、フェムトという語は、単位の接頭語であり、それぞれ10−9, 10−12, 10−15を表します。よって、ナノ秒、ピコ秒、フェムト秒というのは、 それぞれ 10−9 秒、 10−12 秒、 10−15 秒のことです。光速を3×108m/sとすると、1秒間に進む距離はナノ秒レーザーで300mm、フェムト秒レーザーでは0.3μmでしかありません。超短パルスレーザーでは、1秒間にほんの僅かしか進まないことがわかります。
レーザー除去加工というのは、レーザーで物質にエネルギーを与え、発熱させることで、材料を除去する加工です。熱が加わった箇所は何らかのダメージを受けます。したがって、熱が加わった箇所のみが完全に除去できると、他の箇所に熱影響がないわけですから、高品質な加工となるわけです。つまり、加工箇所を極々短時間だけ急激に加熱し、加熱箇所以外へ熱が伝搬する前に冷却できれば良いわけです。
物質を発熱されると書きましたが、正確には、物質を構成する原子の電子にまずエネルギーが与えられ高温となります。続いて、格子イオンが発熱します。この格子イオンの温度が高まる前に照射を止めると照射した部分のみを除去できる高品質な加工ができると言われています。格子イオン温度を上げないようにするには、10ps以下程度のパルス幅である必要があると考えられており、ピコ秒レーザー、フェムト秒レーザーが最適となります。
このピコ秒レーザーやフェムト秒レーザーなどの超短パルスレーザーで、実際にどの程度熱が照射位置以外の場所へ伝わるのか見てみます。
レーザー照射時の熱拡散長 \( x_th \) は、レーザーのパルス幅を\( \tau_p \)として、次式で表されます[1]。
$$
x_{th} = \sqrt{ \frac{2k_0 \tau_p}{C_i}}
$$
ここで、\( k_{0} = [W cm^{-1} K^{-1} ] \)は熱伝導率、\( C_i [cm^{-1} K^{-1}] \) は格子イオンの熱容量です。例えば、銅に対してレーザーを照射し、蒸散が起こる融点1356Kまで加熱すると、フェムト秒レーザーではxth=329nmですが、10nsのナノ秒レーザーでは、xth=1.5μmとなります。このように、フェムト秒レーザーの方が、レーザー照射箇所以外への熱の伝搬が少なく、ダメージを与えないことがわかります。
また、一方でレーザーの集光スポットそのものを小さくできることも確認されています[2, 3]。これは、レーザーの尖頭値が非常に高く、スポットのほんの中心だけでも高いフルエンスを得ることができるためと考えられます。加工スポットがより小さくなると、さらに小さな加工ができますので、微細加工には非常に有利な現象です。
この他にも、超短パルスレーザーを用いると、特有のリップル形状(微細な周期構造)や、レーザーアニーリング、薄膜生成など特徴的な微細加工を実施することができます。
[1] フェムト秒レーザーによる物質プロセッシング、橋田昌樹et.al.、光学、31 第8号(2002) 621
[2] P. Pronko, et al., “Machining of sub-micron holes using a femtosecond laser at 800nm”, Opt. Commun., 144 (1995), 106-110.
[3] S. Guizard, et. al., “Femtosecond laser ablation of transparent dielectronics: Measurement and modelisation of crater profiles “, Appl. Surf. Sci. 186 (2002) 364-368.