1. レーザー加工とは
レーザー加工とは、レーザーが発生させるエネルギーを利用して、加工を行うことです。加工は、物質にエネルギーを与えて、その形状や性質、特性などを変化させることを指します。例えば、材料を切断したり、削ったり、曲げたり、接合したりすることで、新しい形状、性質などを変化させ付加的な機能を追加します。
レーザー加工では、多くの場合、レーザーを集光して物質に照射することで、そのエネルギーを熱に変換して物質に変化を与えます。金属にレーザーを当てて切断したり、穴をあけたりすることが典型的なレーザー加工です。また、与える熱の程度をうまくコントロールすると、物質の形状は変えずに性質(例えば、色など)を変化させることができます。この応用がレーザーマーキングです。
一方で、化学的な変化を利用した加工もあります。レーザーの持つ光子エネルギーが物質の化学結合を切断することで物質を分解する加工があります。これは、直接的には熱を用いない加工です。特に樹脂の加工には効果があります。また、レーザーで硬化する特殊な樹脂もあります。この樹脂を用いるとレーザーにより任意の形状を作り出すことができます。
2. レーザー加工の種類
レーザー加工には、大きく分けて以下の3つの種類があります。
・除去加工
・付加加工
・改質
2.1 レーザー除去加工
レーザーを用いて物質から、その一部を取り除く加工を言います。例えば、切断ですとレーザーで物質を溶かし、溶けた部分を除去することで物質に切り込みを入れ、切断することができます。穴加工も同様に、熱で物質を溶かし、溶けた部分を除去することで穴が開きます。
また、レーザーの光子エネルギーを利用して物質の化学結合を切断することで物質の除去加工がおこなわれることもあります。こちらは、原理的には熱を伴わないので、熱によるダメージが少ない高品質な加工ができます。
この除去加工が、レーザーでは最も多い利用方法で、金属等の切断、穴加工が工業的にも活用されています。
2.2 レーザー付加加工
レーザーを用いて物質を溶かしたり、化学的な変化を与えて、物質をくっつけて、3次元的な形状を作り出していく加工です。最近では、3Dプリンタと呼んだ方が理解が早いかもしれません。
特にレーザーで細かな粉体を溶かしながら3次元的な形状を創成する手法は、Laser Sinteringとも呼ばれています。非常に細かなパウダーを扱うことができるので、高精度な3次元形状の作成も可能です。
レーザーに反応して硬化する特殊な樹脂を用いる付加加工があります。レーザーが集光した点のみで樹脂が硬化するように条件をうまく設定すると、非常に繊細な3次元形状を創成できます。
2.3 レーザー改質
レーザーの持つエネルギーを利用して、物質の形状は変えずに性質のみを変化させる加工です。身近なものですと、レーザーマーキングがあります。これは、物質の形状は変化させずに色のみを変化させ、素地を異なる色にすることでマーキングを実現しています。
また、物質表面だけではなく、内部にマーキングすることも可能です。物質に対して透明なレーザーを用い、物質内部に集光すると物質内部の集光点でのみ変化が起こります。レーザー集光点の大きさでマーキングできますので、非常に微細なマーキングをしかも3次元的に行うことができます。
3. レーザー加工のメリット・デメリット
レーザー加工は、他の加工方法と異なる性質が多く、興味深いものです。実利用の点から、以下のメリット・デメリットがあります。細かく見ると例外が多くあるのですが、あくまで一般的な例として記してあります。
■ メリット
(1) 非接触加工
レーザーは、エンドミルのような工具が直接物質には触れません。そのため、物質には余計な力が加わらず、ダメージを与えません。また、加工中の物質の固定方法も、レーザー放射圧で動かない程度で十分です。
(2) 微細な加工
レーザーは、集光点が工具のように働きます。その大きさは、装置の仕様にもよりますが、通常φ0.1mm以下程度です。つまり、φ0.1mmの工具で加工することと同義ですから、非常に微細な加工ができることになります。
(3) オンデマンド
レーザー加工機は、ソフトウエアによって制御されます。加工形状や加工内容の変更は、デジタルで瞬時に行われ実行されます。つまり、少量多品種のオンデマンド加工には最適な加工方法です。また、デジタルデータを用いますので、データの再現性、保存性、可搬性が高いので、何度でも、いつでも、どの装置でも同じ加工ができることがメリットです。
(4) クリーンな加工
レーザー加工は、通常は、大気中で行われます。加工時に、切削油や化学溶剤、真空環境は必要ありません。環境を汚さずクリーンな加工ができます。加工機自体をクリーンルームに設置して加工することもあります。
(5) 工具摩耗がない
非接触加工であることと関連しますが、接触するものがないので、機械工具のように摩耗はしません。したがって、長時間にわたり、安定して高品質な加工ができます。しかし、レーザー出力の変化で加工内容に変化が生じますので、レーザー出力の管理は必要です。
(6) 様々な材料に対応
特に、除去加工においては、レーザーにて加工できる材料の制限はありません。使用するレーザー、レーザー加工機によって、得手不得手はありますが、基本的に地球上のすべての物質を加工できます。これが、レーザー加工の最大のメリットです。
■ デメリット
(1) 熱影響
通常のレーザー加工は、熱を伴う加工です。熱で物質を溶解させて除去したり、物質を付加したりします。そのため、どうしても熱歪が発生して、物質が曲がったり、反ったり、変色したりという問題が発生します。また、溶解した物質が再付着して問題となる場合もあります。
(2) 消費電力
レーザーは、他の加工方法と比べて、エネルギー変換効率が低く、多くの電力を消費します。ランニングコストを考えるうえで、この点も重要です。
(3) 装置コスト・メンテナンスコスト
レーザー加工を行う加工装置は、一般的に高額です。それは、レーザー本体が高額なことに起因します。消費電力を含めたランニングコストも問題ですが、この初期投資にあたる装置コストも十分に考慮する必要があります。
また、加工装置には、特に光学系関連で消耗品があります。この消耗品が高価なため、メンテナンスコストが多くかかる場合があります。
4. 次世代のレーザー加工
レーザー加工は、上にあげたように非常に面白い利点を持つ魅力的な加工ですが、『熱影響』という、大きな問題があります。レーザー加工は、熱エネルギーを用いる加工である以上、避けては通れない問題です。
しかし、最近では、この課題をレーザー特性を変えることで解決しようとする試みがあります。
それが、非熱加工(コールドアブレーション)という原理です。
アブレーションは、日本語で蒸散とも訳される単語で、物質にレーザーが当たった瞬時にまるで蒸発するかのように物質がなくなる現象をいいます。これは、非常に狭い領域に非常に短時間だけレーザーを照射すると、そのわずかな領域だけに短時間だけ熱エネルギーが加えられ、物質が除去される現象です。
これを究極的に突き詰めると、レーザーのスポット僅かφ数十µmの領域だけ除去され、他の部分には熱影響が全くない加工ができます。これが非熱加工(=コールドアブレーション)と呼ばれる加工です。
この加工のためには、非常に狭い領域へレーザーを、極々短時間だけ照射する必要があります。この時用いられるレーザーは、非常に短い時間だけレーザーをOn/Offさせることができる『超短パルスレーザー』です。
この超短パルスレーザーを用いることで、従来は不可能であった、高品質、高精細、超微細な加工が可能となっています。
5. さいごに
レーザー加工は、従来の加工方法では見られない特徴的な加工方法です。メリットもあれば、反対にデメリットもあります。これらの特性をよく理解して適切に利用することで、従来では不可能であった魅力的な加工ができると期待できます。
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