概要
レーザー加工では、高いエネルギーのパルス光が必要となります。
レーザーの共振器の性質を示す一つの数値としてQ値(共振器品質)というものがあります。これは、レーザー共振器の発振しやすさを示す値で、Q値が高いほど発振しやすい状態となります。QはQualityのことで、共振器の品質を指し、共振する光の損失が低い程Q値が高くなります。
固体レーザー共振器中の損失を制御することで共振器のQ値を高速にスイッチングする操作を、Qスイッチと呼びます。
このように、Qスイッチとは、共振器のQ値の高速スイッチングにより、強いパルス光(ジャイアントパルス)を得るレーザー技術のことです。
原理
レーザーにおいて、励起→反転分布→誘導放出の過程を経て得られる光の増幅は、それほど大きくはありません。そこで、非常に多数の原子が励起状態になるまでQ値を低くして発振を抑え、十分に多くなったのちQ値を高くし発振させる方法がQスイッチです。
このように、固体レーザーでは、レーザー共振器のQ値を高速に制御することで、共振器内に蓄積した励起エネルギーを短時間に光パルスとして取り出すことが可能となります。
共振器中の損失αを増大させてレーザー共振器のQ値を低い状態にすると、誘導放出等により、共振器から放出されるエネルギーよりも共振器に注入される励起エネルギーが上回るので、レーザー媒質中に励起エネルギーが蓄積されます。十分に励起エネルギーが蓄積された後、急速に共振器中の損失αを減少させて、共振器のQ値を高くすると、急激に誘導放出が増加し、レーザー媒質中に蓄積されていたエネルギーが、非常に高いピークパワーの短パルス光として出力されます。
構造
Qスイッチレーザでは、共振器内にシャッター機能を持つ素子が内蔵されています。
レーザ結晶の反転分布が大きくなるまで発振が起こらないように、シャッターを閉じておき、 反転分布が十分大きくなった時点でシャッターを開くことで、高速のスイッチングを行い、強いパルス光を発生させます。シャッターを閉じてある状態がQ値が低い状態で、シャッターを開く状態が一気にQ値を高めた状態とおなります。
シャッター機能を持つ素子としては、音響光学素子、過飽和吸収体や回転ミラーなどが主に用いられます。
種類
Qスイッチを用いた共振器中の損失αを制御する方式には、その構造から大きく2つの種類があります。
高速な光スイッチング素子を使用する能動Qスイッチと、非線形な光吸収飽和特性をもった媒質を使用する受動Qスイッチです。
受動Qスイッチは、パルス繰返しや出力特性が可飽和吸収体の特性に依存するため、積極的な制御ができません。任意の制御の困難さがデメリットとなり、加工用のレーザーには、ほとんど用いられていません。
能動Qスイッチは、高速に動作し、信頼性や制御の容易性が高い音響光学素子を使ったQスイッチや、電気光学式のQスイッチ方式があります。これらの方式は、加工用固体レーザーのQスイッチとして用いられる場合が多いです。
音響光学Qスイッチは、超音波により伝搬方向を変化させられる光変調素子をレーザー共振器内に挿入し、回折損失を利用してQスイッチ動作を行います。電気光学Qスイッチは、ある結晶に電界を加えたときの複屈折性により、その物質中を通過する光線の偏光面が変化する性質を利用したQスイッチ方式です。
かつて、開発当初は高速に回転するミラー等を用いていました。一方の共振器を構成するミラーと対向したときにQ値が増大してQスイッチ発振する方式でしたが、可動部分があるため、速度に限界がありメンテナンス性からも、非機械式の阻止に置き換わりました。
応用例
一つの応用例が、ルビーレーザーです。694nmの波長で発振するレーザーで、皮膚の治療(しみ、あざの除去)に用いられています。